ハートレススクール

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熱気がロッカー内を蒸し風呂にさせ、直ぐに汗が流れる。学生服に染み込む汗。通は釘の如く硬直してから身動ぎもない。背後、ロッカーの外から声が途絶えた。金属が衝突する音色。足音だ。此方に近付いている。言い知れぬ不安が背を押し、通を力を込めて抱く。目を瞑り、祈る。唇を巻き、数秒息を止める。否、止まっちゃったのだ。 息が止めれず、通の顔に向けて不可抗力で吐く。数十秒が何時間にも感じれた。体験した時間の経過が時計と大きく違う。足音は遠ざかり、出るのも気が引けてそのまま六十秒を十回数える。喉が干からび、流れる汗が目に入る頃には気配は完全に消滅していた。倒れるように、ロッカーの扉を開けて飛び出した。熱さで逆上せた頭がぐらぐらした。全身が濡れている。頭からバケツで水を被ったように、濡れていた。通も遅れながらロッカーから出て来て、汗で筋を引く髪を掻き上げた。 突飛。教室の前にある特大の液晶画面に存在する田中先生が喋っていた。 「かなこくん、通くん。このクラスで生き残った生徒は二人を含めて三人だけです。人数が合わないので次回の授業からは一年生の生き残りを集めたクラスを併設します」 淡々と、易易なんて様で国語の教科書片手に田中先生は言っている。周囲は見たくなかった。校内放送。 「現時刻をもって第三回『ハートレス』試験運用を終了致します。生徒は速やかに寮へ帰宅し、休日を挟んだ三日後に登校してください。以上」 それは、妙に落ち着いた放送だった。なにがなんなのか分からず、分かりたくもなかった。途方に暮れ、通に泣きそうな顔を向けたままでいた。泣きたいのに、これでも現実から突き放されていて、実感とかがなくなっていたのだ。私は堪らずかぶりを振った。
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