一、池の主

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それは兎も角、地脈の流れを止めているものとは、一体何だろう。 見た所、何の変哲もない滝と岩場があるだけで、可笑しな所は見当たらない。 岩場を登ったり降りたりしながら調べてみても、あやめにはさっぱり分からなかった。 「うぅ~ん……主様には申し訳ないけど、私じゃ……あっ!」 きょろきょろと、周りを見回しながら歩いていた所為で、足元が疎かになってしまい、石に躓き転びかけ、寸での所で踏みとどまる。 少々不安定な場所にあったらしい、人の頭ほどの大きさの石が、ごろんと音をたてて転がった。 「ふう…、一旦戻ろう」 主には申し訳ないが、分からないものをいつまでも探していても埒が明かない。 はちが食料の調達を終え、もう戻っているかもしれないので、自分が中々帰らなければ余計な心配をかけてしまう。 主には、正直に分からなかったと伝えるしかない。 「でも……死んじゃうのは、可哀想……」 誰だって、死ぬのは怖いものだし、嫌だと思うものだ。 それはきっと、人も妖も変わらない。 「こういう事は、はちの方が詳しいから、後で聞いてみよう。あ、主様とはちが直接話した方が早いかも。……はち、聞いてくれるかなぁ」 関わるなと言われていた妖に、自ら関わってしまったので、後で彼に叱られるかもしれない。 あやめは生まれた時から人外を引き寄せ安く、物心つくかつかないかの頃まで、人と妖の区別がつかなかった。 遊んでいた相手が妖と知らず、誰にも見えない友達を指差して、 「このこと、あそんでたの」 と言って、親や他の大人達を気味悪がらせたり。 神隠しに会い、数日行方知れずになった挙句、妖に手を引かれ、けろっとした顔で帰って来たり。 それから、こんな事もあった。 ある日、ある屋根の上、小さな妖達がぴょんぴょん飛び跳ね、 「ここの爺様はあと三日」 と、楽しそうに話しているのを、周囲の大人にそのまま言った時の事。 何を馬鹿なと半信半疑であったものが、三日後、あやめの言った通りになると、それこそ人外を見るような怯え慄いた目で、彼らは彼女を見たのだった。 余談ではあるが、まだ小さかった頃の話なので、曖昧な記憶の方が多いのだが、あの頃の自分を見る大人達の目だけは、彼女は一生忘れないだろうと思っている。 話が逸れたので、戻したい。
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