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例え、常人ではあり得ない怪力さに度肝を抜かれたとしても、その後にこみ上げて来るのは、彼の美しさに対する感嘆の吐息ではなく、ある種の滑稽さを余すことなく醸し出している、全体的な見た目に対する失笑ないし、落胆の溜息であることは請け合いだった。 それは兎も角、彼は何処にそんな大きなものが?と首を傾げたくなるほど大きな風呂敷包みを軽々と担いだまま、一軒の家を指差している。 娘はそんな男を怖がるでもなく、「はち」と咎めるように呼ぶと、腰に手を当てじっと睨みつけた。 「目はともかく、髪の色は黒くしてって言ったでしょ。私には、いつも目立つことはするなって言うくせに。 その髪の色は綺麗で好きだけど、人に見られたら、すぐにはちが妖(あやかし)だってばれちゃうじゃない。私に言うなら、自分もちゃんとしてよ!」 男の奇異な風体を指摘するでもなく、尋常ならざる怪力に慄くでもなかった娘が突っ込んだのは、彼の人にはあり得ない髪の色に対してであった。 かと言って、それとても当然のことと受け止めているらしい彼女は、唇を尖らせ、これまたさも目の前の男になら出来ると言わんばかりに髪の色を変えろと言い、白銀の狼と同じ名で呼ばれた男は、それに煩そうに顔を顰めて見せた。 「俺は良いんだよ」 娘の額を軽く小突いた彼は、出来ないとは言わなかった。 「人間に姿見えなくするくらい、俺にとっちゃ朝飯前だっつったろ。見えなきゃ髪の色が何色だろうが、関係ねえし」 フンと鼻を鳴らし、若干、得意気にも見える表情で言った彼に、娘は頬を膨らませて抗議する。 「そんな事言って、すっかり忘れてしっかりばれて、折角馴染んだ場所を離れる羽目になったのは、半年も前のことじゃないじゃない」 痛いところを突かれたのか、男は渋面で耳に指を突っ込み、明後日の方向を向いている。 「うるせえな、あれはたまたまだろ……」 「だから、たまたまでもばれないように、普段からちゃんとしてって言ってるの」 力んで言葉を重ねる娘に、「へえへえ」と気の無い素振りで答え、彼はすたすたと歩き出す。 「もー!全然聞いてなーい!」
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