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大きな風呂敷包みを担いでいる割りに、特段重くもなさそうに歩く、偉丈夫で以って美丈夫の背中を追いかけつつ文句を言うあやめに、彼は振り返り、
「お前こそ、今度は面倒事に巻き込まれるなよ?ったく、お前ときたら、行く先々で妖と関わりやがって。人間のくせに、何でそんなにあいつらと縁があるかねぇ」
やれやれと溜息でも吐きそうな素振りで、彼女の一番痛い所を突いた。
すると、途端に彼女はしゅんと項垂れる。
「そんな事言われたって……別に、好きでこんな風に生まれた訳じゃないもの……。そのせいで、はちに沢山迷惑かけてるの、わかってるけど……」
萎れた花のように俯く彼女を見て、はちはバツの悪そうな、困った顔で眉間に皺を寄せ、それからふっと優しい表情になり、ぽんとあやめの頭に手を乗せ言った。
「悪かったよ、言い過ぎた。俺は迷惑だなんて思っちゃいねえよ」
あやめがそろっと上目遣いで彼を伺うと、そこにあるのは、頭に置かれた手と同じくらい優しくて温かい瞳と笑みで、彼女は俄かに元気を取り戻す。
「んーん、良いの。本当の事だし……それに、そのおかげで私は、はちと出会えたんだもの」
にこっと微笑むあやめの頭を、大きな手が撫でる。
「さて、日が暮れる前に、家を何とか住めるまでにしねえとな」
視線を一番ましだと思える一軒へ向け、言ったはちに、あやめがすかさず釘を刺す。
「その前に、髪をちゃんとしてね?」
「そこは忘れとけよ」
「忘れるわけないじゃない」
「この姿だと、これが一番しっくりくるんだよ」
「それはそれ、これはこれ」
「へいへい」
仕方なしと返事をし、はちは白銀の髪を瞬く間に黒髪へ変えた。
「これで良いんだろ」
面白くなさそうに言った彼に、あやめは満足そうに笑って頷いた。
この二人のやり取りからも分かるように、あやめは人間の娘であり、はちは狼の妖である。
彼等が何故、二人だけで生活しているかは、話の合間に追い追い明かすとして、今回は、この地で二人が巻き込まれる出来事について語って行こうと思う。
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