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大地を駆けるように四肢を動かし、山裾に広がる森が一望できる高さまで来ると、今、自分達がいた集落跡を中心に辺りを見渡して行く。
“ん、何だありゃ?”
食料と槇の調達がてら、周りを調べておこうと空へ上がってみたら、早速妙なものを見つけてしまい、はちは良く見ようと、赤味がかった琥珀の瞳を凝らしてみる。
それは、小高い山の中腹から流れ落ちる滝を水源としている小さな池で、そこから感じる淀んだ気配に、彼は鼻の頭に皺を寄せて舌打ちした。
この森自体は、山の地下深くを通る地脈の気を蓄えた滝を水源とし、枝分かれして四方に伸びる川のおかげで、とても良い気を放っているのに、それに隠され気付けなかった、小さな池から感じるものは、希薄ではあるが、嘗て命を失った多くの人の念と、無意味な殺生に穢された土地の、凝った血生臭い気だ。
“十年位前……か?”
殺生が最後にあったのが、それくらい前だろうか。
それからは何もないらしく、歳月と森の気に浄化されつつあるが、あやめは近づかせない方が無難だろう。
“大元はまだいるのか。小者の割に、中々しぶといじゃねえか。まあ、それも時間の問題みてぇだが……あやめには近付くなつっとかねえとな”
ぶつぶつと呟いて、はちは池の水源となっている滝の上空へと移動した。
“ふうん、成る程ねえ”
意味あり気にじっと見降ろした彼は、
“後で、あそこで魚でも捕るか”
言って空から翔け降り、先ずは槇を目当てに森の中を散策し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、あやめは粗方の掃除を終わらせ、一息吐くと、家屋の中を満足そうに見渡していた。
「うん、充分でしょ。竈も使えるし、良い所が見つかって良かった……あ、そうだ!」
一つ大事なことを忘れていたと、ぽんと手を打ち、外へ出る。
井戸に近寄り、朽ちて殆ど役割を果たしていない木の蓋をどかすと、彼女は身を乗り出すようにして下を覗き込んだ。
「ああ、良かった、涸れてない」
ここら辺は水が豊かで、質も良いとはちが言っていた。
早速、甕に水を汲んでおこうと身を起こしかけた時、井戸の水面に二つの淡い光を認め、あやめは不思議に思ってそれをじっと見つめた。
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