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神田晴は深い海の底にゆらゆらと浮かんでいる。
不思議と息は苦しくなかった。
魚はいない。
どこだろうここ。
辺りを見まわしても深緑と青の綺麗なグラデーションが広がるばかりで、この先を想像させてくれるようなものは何もなかった。
「……」
口を動かしてみると泡が出る。声は出ない。
ふと、どんどん自分が沈んでいる事に気が付いた。
上にわずかに見えていた光は遠くなり、深青が身体を包む。
奇妙な心地よさを覚えた。
いつまでもここで漂っていたいような、この眩い景色に見慣れて、ゆらゆらと何も考えずに……。
ずっと煩わしい何かにせっつかれていたような気がする。
家に帰ってベッドに沈む。
母の膝に抱かれる。
もう何も怖くない、そんな理屈のない安心がここにはあった。
何だか眠いなぁ。
ここはどこだろう。
どうでもいいか、そんなことは。
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