第二章

48/55
前へ
/106ページ
次へ
こちらが押し黙っていることにしびれを切らしたのか、フジムラは最初からずっと変わらない、へらへらとした口調で話し始めた。 「随分と考え込むねー。そんなに迷うとこかな」 「慎重派なんだ、察してくれよ」 「ま、俺はいいけどね? ヘレンもそっちの『始まり』とは仲良くなさそうだし、君が入らなくても戦況は変わらない」 仮にもさっきまで勧誘していた奴に対して、随分な物言いだ。 まがいなりにも戦争を経てきたせいだろうか、フジムラの瞳から親しみやすい光が失われ、どす黒い何かが渦巻いているのを感じ取った。 「でもね、神田君。君が何かの間違いで『ゼツ』の味方になっちゃったりしたら、ちょっと困るんだよねぇ」 ぞくり。 背中に氷を落としたような、突然の恐怖だった。 先ほどまで感じていたどす黒さがぶわりとフジムラを取り囲み、蛇のようにとぐろを巻いた。 能力じゃない。 彼から感じる明瞭なイメージが、視覚での認識と錯覚するほどに脳内に植え付けられているのだ。 「そっ……か」 息をするのも苦しくなったその空間で、ハルは辛うじて言葉を吐き出した。 「アンタ、『ゼツ』を止めたいだけなん、だな」 今のフジムラの言葉に祝日戦争の阻止を望むものはない。 ただ『ゼツ』を止めるついでに、祝日戦争が『めんどくさいから』終わればいい、などという、受動的な思考が見える。 先ほどまで語っていた『WORLD』の目的やこの世界への愛など、冗談のように思えてくるほど、彼の言葉には強い圧力がかかっていた。 「だったらどうかしたのかい?」 「だったら俺は、『WORLD』には入らない」 手は、青白い鱗に覆われていた。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加