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こちらが押し黙っていることにしびれを切らしたのか、フジムラは最初からずっと変わらない、へらへらとした口調で話し始めた。
「随分と考え込むねー。そんなに迷うとこかな」
「慎重派なんだ、察してくれよ」
「ま、俺はいいけどね? ヘレンもそっちの『始まり』とは仲良くなさそうだし、君が入らなくても戦況は変わらない」
仮にもさっきまで勧誘していた奴に対して、随分な物言いだ。
まがいなりにも戦争を経てきたせいだろうか、フジムラの瞳から親しみやすい光が失われ、どす黒い何かが渦巻いているのを感じ取った。
「でもね、神田君。君が何かの間違いで『ゼツ』の味方になっちゃったりしたら、ちょっと困るんだよねぇ」
ぞくり。
背中に氷を落としたような、突然の恐怖だった。
先ほどまで感じていたどす黒さがぶわりとフジムラを取り囲み、蛇のようにとぐろを巻いた。
能力じゃない。
彼から感じる明瞭なイメージが、視覚での認識と錯覚するほどに脳内に植え付けられているのだ。
「そっ……か」
息をするのも苦しくなったその空間で、ハルは辛うじて言葉を吐き出した。
「アンタ、『ゼツ』を止めたいだけなん、だな」
今のフジムラの言葉に祝日戦争の阻止を望むものはない。
ただ『ゼツ』を止めるついでに、祝日戦争が『めんどくさいから』終わればいい、などという、受動的な思考が見える。
先ほどまで語っていた『WORLD』の目的やこの世界への愛など、冗談のように思えてくるほど、彼の言葉には強い圧力がかかっていた。
「だったらどうかしたのかい?」
「だったら俺は、『WORLD』には入らない」
手は、青白い鱗に覆われていた。
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