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大隅さんの提案で劇が始まる前に、キャストの紹介をすることになっていた。
「どの部活の誰が、その役をやっているのか――最初に披露したらインパクトあると思うんだ。キャストを見知った上で、その後に展開される話に入り込みやすいでしょー」
そういういきさつがあるので、インパクトのある挨拶をしなければならなくなり、猛練習をしたのだった。
「ノリトさん、恥ずかしがらないでください。ニッコリと微笑んで、観客を魅了しなきゃ! はい、ターンしてドレスを持ち上げながら、可愛らしく小首を傾げて!」
ニッコリ微笑んでターン……。そればっかり練習してたらその内、目が回ってしまったんだ。ふらつく体を支えてくれたのは、傍にいた小林くんだった。
「大丈夫か、ノリトくん。大隅さんは見かけによらず、スパルタなんだな」
その言葉に、大隅さんが腰に手を当てて応戦する。
「小林くん、ノリトさんはやればできる人なんです。甘えさせないで下さい」
小林くんに支えられてる状態を吉川に見られちゃマズイと思い、ふらつきながらもしっかり足を踏ん張った。
「健気だね、君は」
結構手荒に突き放したというのに、メガネの奥の瞳を細めて、じっと見つめてくる。
「あの大丈夫だから。心配かけてごめんね小林くん」
「ムダな練習するよりも、好きなヤツを想って披露することを考えたらどうだ。そんな作り笑いじゃ、誰も魅せられない」
分かりやすいアドバイスを小さな声で告げ、去って行く後ろ姿を切なく思いながら、胸の前で右手を握りしめた。
「さっすが小林くん、いいこと言うなぁ。さっそくチャレンジですよ、ノリトさん」
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