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電車が動き出すと、もっさんが小さな声で鼻歌を歌い出した。何の歌だろう?と思ったけれど、答えは出て来なかった。そういえばもっさんは隣にいるといつもこんな風に鼻歌を口ずさんでいたなと思い出した。
僕らの出会いはずっと昔、物心のつく前の話だ。
僕の実家は見渡す限りを山に囲まれた田舎町だった。両親は兼業で、母方の実家で祖父母と一緒に暮らしており、祖父母は農家だ。もっさんは僕の隣の家(といっても100m以上離れている。田舎は一軒一軒の家の間隔が広い)に住んでいた。
もっさんの家では代々、こんにゃく芋を作っていて、やんちゃな僕らは夏になるとわさわさと生い茂り、樹になった広大なこんにゃく畑に忍び込み、よく怒られたものだった。
もっさんと僕はとても気が合った。僕らは同い年だったし、ずっと一緒に育って来た。僕は植物や枯れ葉を召集するのが好きで、もっさんは川原の石を召集するのが好きだった。
小学校低学年の時、習い事として互いの母親の薦めで、僕らは絵画教室に通い始めた。その頃の僕は庭先で拾った落ち葉に絵の具をつけてスタンプのように紙に押し付けて魚拓ならぬ葉拓で遊んでいたので、絵に興味はあった。
むしろ本格的に筆を持ってキャンバスに向かう仕草に、立派な画家になったような気分になって楽しかった。
皿の上に無造作に置かれた果物を木炭でデッサンし、色を塗る。油絵の独特な匂いも好きだったし、先生に誉められるととても嬉しかった。僕はそうして絵を描く楽しさに目覚めていった。
「山村くん、何してるの?」
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