green heart

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「貼り絵を?」   正直、その画家をその時の僕は知らなかった。もっさんは何を模写するのだろう?ちらりと横目で覗くと、もっさんの机の上にはスーラのポストカードが置いてあった。 点描画を貼り絵で描くつもりなの?ありえないと思った。もっさんはポストカードを片手に机の上に広げた折り紙を吟味している。いくつかの色をピックアップすると、びりびりとフリーハンドで裂き始めた。僕は唖然としたまま成り行きを見守る。   瞬きもせずにじっとボードに向かう。口がアヒルのように尖っている。もっさんが集中している時の顔だった。そのまま、一心不乱にアラビアのりに細かい折り紙の破片をつけては貼り付けを繰り返す。   下書きをしない、ダイナミックな描き方は絵画教室の時のままだ。迷いなく紙を貼り続けるもっさんが何だかとても男らしく思えた。 「・・・すごい」   出来上がったもっさんの模写に美術の先生は息を飲んだ。限られた紙の色で作ったので、色彩は元の絵よりもだいぶ明るめになったし、もともとは点描の繊細なタッチで描かれたスーラの絵にしては目が粗い。けれど、細かく契った貼り絵は絵画を見事に再現していたのだ。   「山下清の再来かもしれないぞ!」と興奮気味に美術の先生が語ったのを覚えている。   その後、美術の先生の推薦でもっさんと僕は県内で美術系の学科がある高校に進んだ。
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