green heart

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もっさんはその後もめきめきと頭角を現していった。 彫刻の授業では、角の先が森になっている牡鹿を木に彫り、もっさんにしか表現できないであろう世界観と、鹿のリアルさにクラスのみんなが感心してたし、課外授業で陶芸家の先生の下で体験学習をした際に、「君は10年に1人に逸材だぞ。弟子にならんか?」と誘われていた。   ただ、もっさん自身が「●●展で入賞する」とか「絵を描いて食べて行きたい」とか将来に関する欲が一切なかった。絵が好きだから描いている。物を造るのが好きだから造っている。そんな感じだ。   結構、気まぐれで、興味のない授業だと途端にやる気をなくし、居眠りを始める。そして、飽きっぽい。ただ、面白いと思った物への執着と集中力には目を見張るものがある。貼り絵に関してはそれが最大限に発揮されていた。   僕は出来れば、自分が描いた絵が世間に認められて、それが仕事になればいいなと思っているので、自由なもっさんが素直に羨ましくもあり、天賦の才能に嫉妬したりもした。   だから高校卒業後の進路にもっさんが実家の農業を次ぐと言い出した時には驚いた。担任の先生も仲のいい友達も、僕だってもっさんには才能があるんだから美大目指しなよと説得したけれど、もっさんは頑なに断った。   「こんにゃく芋を作って、暇な時に貼り絵ができればそれでいい」   堂々と言い切ったもっさんはカッコ良かった。それでこそもっさんだと感心した。   高校卒業後、東京の美大に進んだ僕と、地元に残ったもっさん。友人関係は今も続いている。   「そういえばさ、これ」
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