魔法をかけて

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かち、かち、かち、かち……アナログな時計の針が、ゆっくりと動いていく幻覚……大きな、時計だ……とてもとても大きな時計だ……ボンボン時計……時計の針が、ふたつとも頂点を差す……途端に、頭をハンマーで殴られたような衝撃が、ガーン、と伝わる……チットモどうにもならない……明瞭ではない……だけれど透明だ……黒色でもある……あるいはムラサキイロなのかもしれない……どれであっても同じで……それはすなわち……あはあはあはあは……。……。……。 「……はい、いいよ、目を開けて」 と……おっさんのその言葉で、ぼくは意識を取り戻した。同時に、瞼を開くと……さっきと何も変わらない風景が広がっていた。 草臥れた、中年のおっさんは、相変わらず、右手にアタッシュケース、左手に杖を持っていて、オデコは少し後退していて、お腹は反対に進行していて、顔は少し脂ぎっていて、眉は濃く、目はぎらぎら。よれよれの背広と、似合わない、曲がったネクタイ……なにも、変わらない風景。 周りは田んぼで、名前も知らない草が生えていて、時刻は夕暮れ……下校時刻で、放課後……と、言うシチュエーション。 ぼくはランドセルを背負っていて、小学生で、なにも変わらない……ただ、おっさんがニコニコと笑っているのが、気に障った。 「これで、たぶん君の願いはかなえられた。どうだい? なにか変わったところはないかい?」 おっさんの言葉に、ぼくは自分の身体をゆっくり見分していく……けれど、とくには見当たらない……三十秒前と、なにも変わらない感覚……異物感はなくて、異常感もない……。 本当に……願いがかなったのだろうか。ぼくは、これで、超能力者……? 試しに、手のひらを掲げて、火の玉を作ってみようと試みる。ファイアーボールと言う奴だ……超能力者なら、自然発火を応用して、できるのでないか、と思ったんだけれど……果たしていかに。 できた。 手のひらの先で、火の玉が踊り子のようにふらふらとしている……それは風になびいている所為であって、コントロールが効いていないわけではないことを、明言しておく……うむ、うむうむ。
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