魔法をかけて

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おっさんは、杖の先を一度地面へと打ち下ろす。土の地面なので、特に耳につく音も出なかったけれど、それが会話の区切りとなることに、変わりはなかった。 おっさんは言う。さっきよりも、瞳がきらきらと輝いている……さっきまでのを豆電球とするならば、今はLED電灯のようだった。 「それじゃあ、私はそろそろ行くよ、少年……次の標的を探さなくてはいけない」 「標的って、なんだか殺し屋みたいな言い方だね……実のところ、妖精もさながらなのに……いや、おっさんの場合は、格好が悪いから、妖精と言う感じじゃないよね……うん」 「ズバッと言う子だなぁ、まったく……ふふん、まあいいさ。妖精でもなんでもね。それじゃあ、また会うことがあれば、話しかけるなりなんなりしてくれ、少年……あはあは、またね」 と、おっさんは実に軽く言って、目を輝かせたまま田んぼ道を歩いていく……方向は、さっきぼくが歩いてきた方で、ぼくとすれ違う形になる。学校の方へと向かうのだろうか? 本当に、不審者として通報されること恐れていないのかな……まあいいか。 おっさんとぼくはすれ違い、少しずつ距離が開いていく……おっさんは振り向くこともせず、ただ歩き続ける……すでに願いをかなえた人間には、用無し、と言ったところなのか……まあ、それはどっちでもいい。 ぼくはおっさんの背中を見ながら、ぐー、ぱー、と手を握ったり開いたりして、時々火をともしたり、風を起こしたりしてみる。バチバチと電気を出すこともできて、うん、ちゃんと超能力者しているみたいだ。 ならいい。おっさんとの取引は完璧だった。 ぼくは、もう一度おっさんの背中へと目線を向ける……その背中は、とても奇跡を起こした超人とは思えないほどしょぼくれていて、ぼくでなければ、あのおっさんが魔法使いだとは思うまい。 ぼくは小さく、口を動かして……「ありがとう」と呟いた。もちろん、その言葉が風にまぎれて、おっさんには届かなかっただろうけれど、それでいい。それでいいのだ……ただの、自己満足なんだから。 さて、とそれじゃあ…… ……殺そうか。
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