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むしろ、一種病弱であるとも言えるような肉体強度をしているので……走って逃げるのは無理だろうし、必然的に、このおっさんに誘拐されそうになったとしても、逃亡の余地はない。
……しかし、ぼくの家はことさら裕福と言うわけでもなく、誘拐を試みるならぼくではなく、もっとお金もっちー、な小学生を狙うと思うので、それはないだろうなぁ、と楽観的に考えていた。
もちろん、社会には『きんせんもくてき』ではない誘拐があることも、ぼくはちゃんと知っているので、警戒するに越したことはないんだけれど……ううん? 結局、ぼくはどうしたいのだろう。
……まあいいか。
おっさんの話くらい、いくらでも聞いてあげよう。おっさんとて、大人には違いないのだ。もしかすると、将来に『ゆうえき』な話が聞けるかもしれない。
「えっと……おじさん」
面と向かって、大人に対して『おっさん』呼ばわりもどうかと思ったので、おじさんと呼ぶことにした。
なんの益もなくただ生きてきた大人だとしても、ぼくよりは数段長く、『生きる努力』と言う奴をしているのは確定的だ。と、すれば、ある程度敬う理由にはなる。
ぼくは、自分の十年後が想像できない。それまでには、きっと死んでいるだろうと思っている。それまで、生きていることに耐えられないと思うのだ。
生きる努力を、放棄していると思う……だからこそ、ぼくは自分よりずっと年上の人を見ると、不思議に思うと同時に、一種尊敬の念を抱かざるを得ない。
よく生きてんな、この人……と、そう思わずにはいられないのだ。
だから、この時も、ぼくはおっさんに対してある程度の礼節は弁えていた。ぼくは言葉をつづける。
「魔法って……え、魔法って、なに? どういうこと? ぼくが子どもだからって、からかっているの?」
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