魔法をかけて

6/17
前へ
/17ページ
次へ
願いをかなえる。だけれど、どうだろう……往々にして、願いには代償が必要だ。 悪魔の取引しかり、いや、そんな大げさなものをちらつかせなくても、買い物をするのにもお金は必要だし、学力を上げるにはそれ相応の勉強が必要だ。 世界は、そう言う風に成り立っている。 だから、「願いをかなえる」と言われても、手放しで「わーい」と喜ぶわけにもいかない……。 「願い、かぁ……おじさん、願いって言っても、あいにく、ぼくはそれに相応するものはもっていないよ? まさか、手放しで叶えてくれる、ってわけでもないでしょ? そもそも、どうやって叶えてくれるの……いや、それより、どんな願いならかなえてくれるの。まさか、目からビームが出せるようにしたい、とか、そんな願いが叶えられるわけじゃないでしょ? もしもできる、なんて言っても、ぼくは信じられないよ。そんなの、『ひかがくてき』だ」 「その、まさかさ。願いを無償で、なんの代償もなく叶えてあげるし、目からビームでもロケットパンチでもなんでも来い、だ。願いの大きさに制限はないけれど、ただし一回までね。一人、一回までって決めたんだ……そして、どうやって叶えてくれるのか、って話だけれど、だから、最初から言っているじゃないか。魔法だよ」 「……ふうん」 魔法、ねぇ……フリフリの衣装を着た同年代くらいの少女や、三角帽子を被って、真っ黒なローブを羽織った老婆が言うのであればともかく……こんな草臥れた中年オヤジがその言葉を発すると、なんだか不自然な感じがぬぐえない。 得てして、魔法と言うのはそう言うイメージだ。 何より、そう言う『しんぴてき』なものは、何をするかより、誰がするか、によって、その『しんぴせい』が浮き彫りになる。彫が深い英国紳士が、トランプで手品をすれば、いかにもな魔法に見えるし、「すげぇ!!」ってなるだろうけれど、近所のおっちゃんが同じことをやったところで、「へぇ、あっそ。で? それどんな仕掛け?」ってなるだけだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加