魔法をかけて

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先入観とは、まことに難しいものだ。そう言う意味では、このおっさんの怪しさ、うさんくささはカウンターストップしてしまっていると言っても過言ではない。 そもそも魔法って……それこそ『ひかがくてき』の権化ではないか。ファンタジーで、ファジー……存在そのものが曖昧模糊な、不透明の化身だ。 「……あはあはあはあは、信じてないね。うん、君は聡明な子供だ……少しばかり、聡明すぎる気がしないでもないけれどね。うん……そうだね、君に願いはないのかい? お金が欲しい、とか、欲しいゲームがある、とか、足が速くなりたい、とか、家族の不仲を治したい、とか、豪華絢爛な家が欲しい、とか、テストで常に百点を取りたい、とか、嫌いな同級生を消してほしい、とか、サンタクロースと友達になりたい、とか、毎日のお小遣いを飛躍的に上昇させたい、とか、お母さんを優しくしてほしい、とか、先生が怒らないようにしてほしい、とか、サッカーが上手になりたい、とか、同級生から畏敬の念で見られたい、とか、不老不死になりたい、とか、異性からモテモテになりたい、とか、顔立ちを格好良くしたい、とか、身長を高くしたい、とか、喧嘩が強くなりたい、とか……なんでもいいよ?」 「あいにく、そんなくだらねぇ悩みはもってないですよ……実にくだらない……そんなもののために生きちゃいません。とはいえ、願いがないわけでもないですけれど……」 「ほお、なんだ、君も子供らしいところがあるんじゃないか。どれどれ、私に言ってみなさい」 おっさんは、ぼくの言葉に、もとからぎらぎらしていた瞳を、より一層きらきらと輝かせる。ええい、なんだ、このおっさん、眼球に豆電球でも仕込んでいるのか。アンドロイド? いや、本人曰く魔法中年だっけ……。 ともかく、ぼくは考える。魔法、魔法ね……魔法と、願い。ふん、なんて奇妙奇天烈な……奇々怪々な言葉なのだろう……信用に値するに足りない言葉だ。 とは言え、願いをかなえる、と言うそれは、実に魅力的なもので……でも、そうだなぁ、もう少し安全確認をしてから、願いの方は考えるとしようか。 「おじさん、実際のところ、どうなの? いままで、一体何人の願いを叶えてきたの? そう、ぼくは実績が知りたいよ。信用できるだけの、実績……それが知りたい」
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