魔法をかけて

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「うん? ……なんだか取引先の会社のようなことを言う子だな……サラリーマン時代を思い出してやんなるよ……まあいいか。とは言ってもなぁ……まだ、願いを叶えて上げよう、と思ったのは、君が初めてだし……実績と言うほどの実績は、どうにもないなぁ……嘘ならいくらでも思いつくけれど、そうしたところで、薄っぺらい膜が重なって、言葉が軽くなるだけだろうし……」 「……ふぅん」 ないのか。実績。ぼくが願いを叶える対象としては初めて、ね……なんて危うい……換言すれば、実験台、と言うことにもなりかねない……けれど、それはそれでプラスの側面も持ち合わせている……か。 しかし、嘘をつかなかったことは好印象だった……それすらも、おっさんの印象操作、と言う可能性が高いけれど……ええい、心と言うのはどうにも厄介だ。 自分じゃあ操作しきれないし、制御できない……鬱陶しいなぁ、まったく……しかし、なら次の質問だ。 「本当に、代償はないの? 一応言っておくけれど、ぼくは何にも持っていないし、なにもできないし、何かをするつもりはないよ? たとえば、『願いを叶えるのに、場所を変える必要があるから、移動しようか』とか言われたら、ぼくは頷かないで帰るよ? 帰ったあげく、おじさんのことを家族に『不審者に会ったー』なんて、軽く相談しちゃうよ?」 「さらりと恐ろしいことを言う子だな……いや、大丈夫、どんな願いであろうと、この場で叶えられるよ。時間も取らせない……かなえるべき願いを聞いたら、そうだなぁ、三十秒もあればなんとかなるだろう……うん、それくらいの時間で、かなえてあげよう。どうだい?」 「……どうだい、って言われてもね」 結局のところ、ぼくは信用していない……このおっさん自身のことも信用していないし、また、魔法と言う存在だって、信用できずにいる。いや、むしろ信用する方がどうかと思うけれど……いやはや。 魔法と言うのは、確かに魅力的なものだ。小学生ならば、一度は必ず、魔法が使えたら、と妄想したことはあるだろう……いやいや、小学生ならずとも、中高生、はたまた大人になろうとも、妄想する人は多いのかもしれないけれど……まあ、魔法と言う言葉に安易に飛びつくのは、小学生くらいなもので……とは言え、あいにくと、ぼくはそう簡単に信じるような、知能レベルの低い小学生ではない。
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