魔法をかけて

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魔法ねぇ……魔法かぁ……それこそ、本当にそれがあるのだとしたら、そしてそれに願いを叶える力があるとしたら、喉から手が出るほど欲しいけれど……そう、そこだ。ぼくが一番問題視しているのは、そこだった。ぼくが喉から手が出るほど欲しているもの……それが、こんな簡単に手に入ってしまう、と言う、違和感……わかりやすく、かみ砕いて言えば、『うまいはなしにはうらがある』……と言う奴だ。 ぼくはそれを警戒している……でも、とは言っても、それを警戒しすぎて、大きな魚を逃がしてしまうのも困り者だ……そこらへんの按配は、どうにも上手く位置づけていかなくちゃいけない。 それは、老い先短いであろうぼくの将来のためでもあり、また、その短いであろう人生を軽々しく、適当に生きるための知恵でもある。 でもなぁ……やっぱり、その願いをかなえてくれるのが、こんなおっさんである、と言うのは、どうにも遺憾だ……なんだろう。別にロマンチストではなかったはずなんだけれど……いやはや、とは言え、妖精の存在を幻視したことがないわけでもない……いわゆるイマジナリーフレンドと言う奴に近いそれだろうけれど……ふん、まあそんなことは今関係ない。 目の前にいるおっさんは、どこからどう見てもおっさんで、ニュースを見ていれば五割以上の確率で見ることができるような、草臥れた会社員風のおっさんでしかなくて、どう贔屓目に見ても妖精には見えない……。 だけれど、妖精にしか人の願いをかなえることができない、なんて言うのは、暴論も暴論、曲論も曲論……どうにも好きになれないし、ぼくはそうは思わない……人の願いはかなえられないもので、それは言うなれば『ふかぎゃく』と言う奴だ。 それこそ、奇跡でもない限り……。だからこその、魔法、と言うわけか……いやはや、なんだかなぁ……。 考えた末、ぼくは口を開いた。 「えっと、それじゃあもう少し確認しておきたいんだけれど、願いは何でも叶うんだよね? なんでも」
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