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豪雨が屋根を打ち据える。
夕刻から降り始めた雨は、今や雷を伴う物となっている。
古く荒れた山寺を見つけた若い僧は、雨に打たれながらも一晩の宿を得た事に安堵した。
寺は荒れて、所々床がたわんだが、本堂には仏様が静かに鎮座していた。
「今宵一晩、お世話になります」
そう告げて深く礼をした僧は、宿の感謝を込めて経をあげた。
若く諸国を巡る僧に、備えられるものは心からの感謝と経だけだった。
その時、不意に雨戸を叩く音がして、僧はそちらに視線を向けた。
そして何の疑いもなく、雨戸をあけてやったのだ。
自分と同じように、雨に打たれて困っている旅人でもいるのだろうと思ったのだ。
そこにいたのは、やはり旅人だった。
年の頃は僧と同じくらいか、少し上だろう。
目を惹くのは、その顔立ちだ。端正で、なかなかに凛々しい男だった。
「お坊様、どうか一夜の宿をいただけないか」
旅人は全身ずぶ濡れになっていて、見ているのも可哀想な状態だった。
僧は慌てて旅人を中へと入れる。そして、自分もまたこの山寺に駆け込んだ者で、ここの住職ではない事を素直に告げた。
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