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「何をするんです!」
「別に、何もしないさ」
「では、離してください!」
「そっち、床抜けてるけど?」
「え?」
自分が走り出そうとした先に視線を向けた僧は、薄暗い中にぽっかりと口を開けた穴を見つけて、そっと一歩下がった。
そしてそのまま後ろにへたり込んでいた。
「少しからかい過ぎたか。ただ、突いたら面白そうだと思って、ついついな。悪かった」
旅人はそう言うと、体を引いて仏像の前あたりに座る。そしてそこに、僅かながらの食べ物を広げた。
「食べるかい?」
干しイモを一つ差し出され、僧はそろそろと旅人に近づく。
警戒しながらも近づいて、イモを手にした僧に、旅人は大いに笑った。
驚くほど、ゆっくりとした時間が過ぎた。
夜も更けるほどになって、ようやく雨は上がったようだったが、ここから出る気にはならなかった。
服も乾いていないし、何より疲れたのだ。
「俺は、隣の町まで行く。そこから船に乗るんだ」
「船に?」
旅人の話に、僧はすっかり警戒心を解いていた。
元々素直すぎるくらいの性格だ。先ほどまでの恐怖も、今は忘れている。
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