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旅人もまた、穏やかな表情をしていた。元々はそう、物騒な性格でもないのだろう。
「野暮用で、帰る途中だったんだ。一晩も打たれたら体が冷えて体力も消耗するし、何より大雨で峠を越えるのは危険すぎる。困り果てていたら、この寺が見えたのさ」
「私も、似たようなものです。足も疲れてしまって、雨も降りだして困ってしまって」
「やっぱ、旅に向いてないんだろ」
「放っておいてください。やめるつもりはありませんから」
強情な声で言った僧に、旅人が笑う。
この時間がなんだかとても、心地よかった。
「さて、そろそろ寝るか。服は…ダメだな、まだ濡れている」
「私もです。でも、他の服もありませんし、暖も取れないのでは体が冷えてしまいます」
裸で寝れば危険があるかもしれない。
僧はお堂の中を色々探したが、寒さを凌ぐような物は見当たらない。
その時不意に、背後から旅人が僧を抱きしめてきた。
「なにを!」
「人肌ってのが、あったなと思って」
そう言ってますます抱きしめる腕に力を込める旅人に、僧は心臓が早鐘を打つのを感じていた。
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