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「冗談を」
「本気だけれど。くっついて寝れば、互いに乗り切れるだろ」
「だとしても!」
「命を繋ぐためさ。自分も俺も助ける事だと思えば、なんてことはないだろ?」
男の言葉に反論できない。
体を冷やして体力を奪われれば、旅を続けるどころの話ではなくなってしまうかもしれない。
実際、一度濡れて冷え切った僧の体は僅かだが震えていた。
お堂は古く、外から見えないとは言え隙間風も入る。そういうものが、濡れたか細い僧の体を更に冷やしていた。
「あんた、俺より冷たくなってるだろ」
「そんな事は」
「じゃあ、震えてるのはなんでだ?」
言い訳ができない。
僧は抵抗をやめて、旅人の傍に寄った。
板の床はひやりとして冷たいが、旅人とくっついて眠るのは心地が良い。
しばらくは警戒していて、眠る事などできなかったが、やがて疲れが勝りまどろみ始めていた。
思えば人の温もりなどいつぶりだろうか。
耳に届く心音が心地よく眠りへと落としていく。
抱きしめる腕は逞しく、体臭は寺の僧とは違う。
僅かに、体が熱くなるように思えた。
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