惑わせたるは香か公か

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荒れた土地にポツンと佇む一軒の戸を不規則なリズムで叩く一つの影 その音を聞いただけで誰が尋ねてきたのか把握した家主は飽きれた溜息を吐き出しながらも、応対しない限り続くであろうこの不協和音を止めるべく渋々と戸を開けた そこに立っていた男は「よぉ!」とひと声あげると悪びれるでもなく、さも当たり前のように部屋へと入ってきた 「ッッ!!!・・・憤怒、貴方またオメガを食い荒らしたまま私の家に来たのですか?」 っと眉を顰め怪訝な顔で明らかな不愉快さを表に出したのだが、憤怒と呼んだこの男にとっては何の効果も無い事は長い付き合いで解かっていた 「ん?っかしーな、風呂は入ってきたんだが、まぁ~だオメガ共の匂いが付いてやがったか、スマンスマン(笑」 「すまない」という感情などカケラも篭ってもいない謝罪とそれをカラカラと愉しげに笑いながら言う憤怒の姿に、最早暖簾に腕押しか・・・と諦めて家主は開けたままになっていた戸を静かに閉め、もてなすつもりの無い来客とは言えどうせ催促されるであろう飲み物を入れる為、井戸の縄へと手をかけた 「全く貴方と言う輩は・・・紅茶で構いませんか?」 「さっすが怠惰!気が利く!!」 「褒めてもこれ以上のもてなしは致しませんよ。どうせ貴方の事でしょうから塔へ帰るよりも近く通過点にある私の家へと立ち寄り、あわよくば此処で寝ようと企んだのでございましょう」 チラリと視線を憤怒へと戻せば、ギクリという効果音が目に見て取れる程引き攣った笑顔で動きを止めた彼の姿に追い討ちをかけるべくピシャリとトドメをさす
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