惑わせたるは香か公か

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「駄目ですからね。自分の帰る所へとお帰りなさいまし」 「怠惰ってば冷たいぃ~」っとあからさまな抗議の声に耳を傾ける事もなく、淡々と動かし続けた手は水を張った鍋を火口へと吊るす作業へと進んでいた 釜戸へと薪と藁をくべ火を付けようと辺りに視線を移すも視界で捉えた空間には火打石が見当たらず小首を傾げていると、先程まで遠くにあったオメガの香りが急激に濃く近付いた 犯人は勿論あの男、憤怒である 物音どころか足音一つ立てず数メートルの距離を縮め近寄った所を考慮すると飛んだのだろうがその速さ、静けさ、正確さが兼ね備えられており 流石に腐っても魔の王たる所以と感心せざるを得ない 普段の所業が下の下しか行わない彼にも王らしい行動が出来たのだな。っと感慨へと耽っていると、憤怒が右手人差し指を立て 空に小さく円を描く すると、火の気など無かった釜戸に火が点り、その火は釜戸内に詰められた藁へと手当たり次第に燃え移るとより大きな火力を求めて薪へと標的を移したようだ パチパチと薪の燃える音だけが奏でていた世界に横に立った男の声が混じる 「火、入り用だっただろ?」 と言い終える間も無く腰に回された腕に右の眉がヒクリと痙攣を引き起こした
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