惑わせたるは香か公か

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進展のない不思議なこの空気を打破しようと恐る恐るもたれ掛かっているであろう憤怒の頭のある方へと視線を移すと予想通りの姿でピクリとも動かない憤怒 その姿は悲愴しきっているようにも見え、少し強く言い過ぎてしまっただろうか?と一抹の不安に対し、どうしたものかと思考を巡らそうとしたその時、僅かに聞こえた音と香りにはたとする まずはこの香り。咽る様なオメガの香りとほのかな憤怒の香りに混じって僅かに匂うアルコールの香り そして、一定のリズムで繰り返されるスースーっという明らかな憤怒の寝息 この二つから推察するにあたり この男は残ったアルコールによる睡魔に負けてただ寝ているだけだと言う事 そうと解かると ひとの心配をよそに気持ち良さげに寝ている彼に対して沸々と怒りの炎が湧き上がり 何かがプチリと切れる音と共に鍋掴みを手に取ると沸騰しきっていた鍋に手をかけ 自身の体を二・三震わせると滑り落ちるように床へと憤怒はダイブした 熟睡していたせいで顔面から着地したお陰で流石に目を醒ました憤怒は短く「イタタッ」と声を漏らすと自身の頭上が暗くなった事に気付き視線を上げる と、そこには宙へ浮きニコリと笑んだ怠惰の姿。しかし その目は非常に冷たく、またその両手に掲げられた鍋から発せられる溢れんばかりの熱気と湯気の存在に気付き 流石にマズイと悟り、心の底からの謝罪の言葉を述べようとしたがその言葉が空を震わす事は無く 次に響いたのは滝の様に激しく流れ落ちる熱湯と憤怒の断末魔であった
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