始動

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一方とある塔では。 反響する音が耳障りとも感じるほどの静かな廊下 その石畳と杖の先がぶつかり、カツリ カツリ っと一定のリズムがこだました。そして暫く鳴り響いた杖の音がピタリと止まる 大きな扉の前、束ねた深紅の長い髪に 少し不自由な足故に杖の音を引き連れたその男は自身が歩みを止めた扉に向かい深々と頭を下げると、ある男の名を呼んだ 「失礼致します サタン様。お目覚めで御座いましょうか」 そう尋ねると、中からは低く 言葉とするには物足りない 唸る声が返ってきた その音を聞き、問いかけた相手はとりあえずは部屋に居るという事を確認した男は扉をゆっくりと押し開くと中へと歩みを進める そこは寝室と言うにはあまりに広く、部屋主の趣味と反して作り込まれているというローマ調に飾られた部屋の中央には巨大なベットが置かれている。 しかし、そんな高貴な部屋作りに反して、床にはサタンと呼ばれた男が昨日、脱ぎ捨てたであろう衣服、空になった酒瓶等が無造作に散乱しており、なんとも残念な部屋と成り果てていた 無論、この惨状を作り出した当の本人は上半身裸でベットに大の字に体を投げ出したまま意識の半分ほどがまだ夢の世界を歩いているようだ それも何時もの事と、慣れた様に床に落ちたそれらを拾いながら杖の音の男はベットの前へと歩みを進めると再び言葉を連ねた 「本日の政も 税の事、兵力強化等 サタン様の御手を煩わせるには小さい事ばかりでは御座いますが如何なされますか」 という問いに夢の淵を歩いている男は気だるそうに片手を僅かに上げると手首だけ左右へと振ってみせる それは「全てをお前に任せる」という2人のみに理解できる合図のようで杖の音の男は小さく「畏まりました」と返し頭を下げた
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