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木々は丁寧に手入れをされているらしく、郊外の森林とはおもむきが異なる。 ここは、きちんと人の手がはいった『庭』なのだ。 その『庭』の木々と、壁の外の木の境目があやふやで、壁の内側にはまた森のように樹木が生い茂っていて、果たしてあの壁に意味があるのだろうか、と疑問に思う。 「庭の手入れはいいけど、もう少し警備に気を配ったほうがいいな」 ふぅ、と吐息をこぼして、あげた視線の先には、木の枝越しにきらびやかな宮殿があった。 あれが、目的地だ。 満ちた月の光を浴びて、凛としたたたずまいを見せている。 藍色の夜空を背景に、青白い輪郭を浮かべる壁。 室内の灯りがもれる大きな窓は無数にあり、すらりと伸びる塔が幾つも見える。 塔の上でたまに光が見えるのは、あそこに夜番の衛兵でもいるのだろうか。 「立派なお住まいで。……さぞ居心地がよいことでしょうね」 宮殿に向けて、皮肉な口調で語りかけた。 「宝物庫にはぎっしりお宝があるでしょう。そんなお宝がいくらか消えても、果たして気づくことができるのか? ても……まーーオレは絶対に気づくものを盗むんだけどな」 木陰の闇の中を軽い足取りで宮殿へと歩み始める。
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