満月の夜に

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西の空の星を見て、赤茶色の髪の少年が難しい顔をした。 額に苔桃色の布を巻き、鎖骨より少し下まで髪を伸ばしている。 それだけで、彼が聖堂に在籍している人間だ、と理解する者もこの国では多いが、加えて、どんな役職に就いているか、までを判断できる者は少ない。 少年は『王』が住まうこの宮殿で、夜毎こうして働いている。 はたから見れば、ぼんやりしているように見える仕事だけれど、小さな変化も見落とせない、意外と神経を使う職だ。 今も、微かな変化を見つけたーーような気がして、眉をひそめた。 「気のせい? 昨日の記録を見たほうがいいかな」 そうつぶやきながら、胸元に手をやり、携帯用の望遠鏡を持ちあげる。 西の山並みに今にも隠れてしまいそうな、ひとつの星をじっと見ていると、不意に背後から声をかけてくる人物がいた。
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