満月の夜に

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「どうかしたか、そんなに注目する星があったか?」 「あ、先輩」 少年が振り向くと、四十手前くらいの男が立っていた。 「西の基点って、あんなに光が強い星でしたっけ?」 基点とは、夜空の東西南北にひとつずつある、不動の星だ。 四季の移ろいにあわせ、さまざまな星座が夜空を彩るが、このよっつの星は決して動かない。 明度や光度も変化が少なく、いわゆる瞬きが、年間通してほとんどない。 だから、彼らのように夜空を見あげる者は、この不動の星を基点にして、方位と星のならびを見る。 訊かれた男も、胸元にさげている望遠鏡を使って、西の基点をのぞき込んだ。 「……うーん。難しいところだな。言われてみれば、やや明るい気もするが」 「いつもの明るさじゃないですよ。ほら、左上に対象と同じ等級の星があるじゃないですか。あれより明るく感じるんです」
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