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当然と言わんばかりに、私の右隣の席に腰を降ろしたのは、煉君ではなく柊先輩だった。すると”ずるい”と少し柊先輩をにらみ、私の左隣に子供用の小さな椅子を抱えて、そこに座った。何だこの食事風景は?
「ひーちゃん!」
あまりの居た堪れなさに、柊に助けを求めた。しかし当の柊は爆笑こそしていなかったが、笑いを必死にこらえていた。せめてもの抵抗として、私は心の中で”裏切り者”と、柊をひとり虚しく罵った。
久々にまともな食事を済ませてから、私は居間で正座していた。怒られたわけではない。まあ私がこれから話すことを考えれば、そうなる可能性は否めないが……。
何かしらの機能を使って画素数を落としたのか、元々画素数が低かったのか、写真の移りは見るからに悪かった。薄暗いというレベルではなく、ほとんど真っ黒にしか見えなかった。しかし、合成写真のように加工された痕跡はない。つまり実際に撮られたものだ。
写真の人物は暗すぎて表情が読み取れないどころか、性別すら分からなかった。現場で触れて舞唄だと分かったくらいだ。写真からは横たえさせられていること、監禁されている可能性が高いこと以外は全く分からなかった。
透視して得た情報は、寸前で気を失ったので、顔は見ていないが、人体兵器が入った装置があった。そこから透明のチューブが床を這っていて、その先は舞唄の左腕に取り付けられていた。人体兵器であるコード・ウエポンは、人間の血液で生きているのだ。
つまり生きるためには、血液を供給し続けなければいけない。私が舞唄を救うには、そのコード・ウエポンを見殺しにする以外に、方法がなかった。その現場に柊先輩を立ち会わせたくなかった。心苦しくなるからではなく、決断できなくなってしまいそうだったからだ。叶うことなら、二人とも助けたい。しかしそれは現実的に難しかった。
「ひーちゃん、このこと柊先輩と煉君に言わないで。失望させてしまうから」
「何も知らないのか?」
柊はそういうと、盛大に溜め息を吐いた。その言葉がどういう意味なのか測りかねていると、柊は静かな声で話を続けた。
『実はお願いしたいことがありまして―――瑠夢のことをどう思っているのか、率直な意見を聞かせてもらえませんか』
『今は理解できなくても、いつか認めてあげて下さい。朝霞は自分が変わる必要があると自覚しました。だからこそ俺は専属契約を受け入れました』
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