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朝からパンをくわえた人と曲がり角でぶつかる確率は、何パーセントほどか知っているだろうか。
その街の人口や細かなシュチュエーションの違いはあれど、約0.000000009%らしい。
日数だと111111111日に一度。
年数だと304414年に一度。
つまり、そんなシュチュエーションに遭遇することそのものが超ラッキーなわけで。
しかしながらそんな貴重な体験をしたにも関わらず、今の俺はトキメキの欠片も感じなかった。
「あー…。大丈夫かい?」
そう言って心配そうに眉を下げたその人は、俺の前に手を差し出した。
「大丈夫です。」
…いろんな意味で。
たっぷりと汗がのった手のひら。
それを丁重にお断りすると立ち上がり、吹っ飛んだ鞄に手を伸ばす。
幸い鞄の中身はぶちまけておらず、少々肘を擦りむいただけだ。
「そ、そうかい?それは良かった。」
俺の様子を確認したその人はほっとした表情を作ると、
「それじゃあごめんね、急ぐからっ!」
そう言って片手を上げ、背を向けて走り出した。
残された俺は風になびく薄くなった髪を見送り、大きなため息を吐き出した。
…今日は厄日かな……。
こっそりと袖についているイチゴジャム。
それを見つければ厄日であると嫌でも思い知らされる。
ショックで立ち尽くす俺の耳に、始業のチャイムの音がとどいた。
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