墨と現と幻と

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 御師様の体調が、悪いらしい。 「御師様、胡蝶です」  なんでも、痔と口内炎とものもらいが同時にできたらしい。 「……御師様。  胡蝶こと、依代です」  自分の体に同時多発テロを起こされた御師様は、早々に仕事をほっぽり出して、いそいそと嬉しそうに寝込んだ。  御師様は、ダラダラと怠惰に過ごすことが、好きである。  ちなみに、それ以上に、お酒と熟女が大好きである。 「御師様、胡蝶です。  開けてもよろしいですか?」  別に、御師様が仕事をしないのは構わない。  いつものことだからだ。  でも一応、私も心配くらいはする。 「御師様、胡蝶です。  開けますからね」  軽めの食事と、口内炎とものもらいと痔の薬を携えた私は、いつものように一方的に声をかけると、長い袖をさばいてスパンッとふすまを開いた。
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