墨と現と幻と

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「…………」  常ならば、そのまま部屋の中に突入する私だが、今日の私の反応は違った。  スパンッと小気味のいい音をさせながら、ふすまを閉める。  ピッチリと元の位置に戻ったふすまは、私が触れる前と1ミリも配置は変わっていない。 「………………」  全てを振り出しに戻した私は、自分が今しがた見た光景を思い浮かべて、さらに振り出しに戻るべきか否かを考える。 「……………………」  だが現実の方が、私に猶予を与えてはくれなかった。  私が見つめる前で、ぐっ、ぐっ、ぐっ、と、ふすまが変形していく。  まるで部屋の中から押されているかのように、こちら側へ湾曲しながら。
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