8人が本棚に入れています
本棚に追加
この日、自分は昼間から街をぶらついてた。
別に不良ではない。
自分だって、土曜日に私服で独り街をぶらつくなんて寂しい事を好きでしてる訳では無い。
中学3年生、つまり受験生だと言うのに遊びに誘われ、たまの息抜きにとOKして、電車に乗って来ればすっぽかされる。
奴は自分に怨みでも有るのか?
腹いせに奴が見たがってた映画を独りで見て後日盛大にネタバレしてやろうと、ちょうど映画館の前に着いた時。
「ひゃっ!」
「あ、すみません」
反対方向から走って来た女性と、派手な音を立ててぶつかった。
相手が思い切り尻餅をついてしまい、反射的に謝る。
しかし女性は自分には目もくれず、慌てて立ち上がると自分の横を素早くすり抜ける。
何かに怯えるように震える女性は、明らかに異常でストーカーからでも逃げてるのか。
「待って」
と、普通の人なら思うだろうが自分はそうは思えない。
通り過ぎた彼女の腕を急いで掴めば、そこから彼女の震えが伝わる。
「……それからは、がむしゃらに逃げても意味は無い。どこまでも追いかけてくる」
「え……っと。どういう……?」
「……此処は人が多い。自分としては人に聞かれたくない話だ。どこか人の少ない場所を知ってるか?」
彼女は僅かに肩を震わすと、小さく首を横に振る。
よく見れば彼女が着てるのは自分の家の近くのお嬢様学校、聖ヘスティア女学院の制服。
つまり、このような繁華街に詳しくない可能性も高い。
仕方が無いので、カラオケボックスにでも行くか。
「ならばカラオケでも探そう。その制服、聖ヘスティア女学院の物だろう? 家もここからあまり近く無いんだろうし」
「わ……わかりました」
彼女は自分の提案に素直に頷き、自分が歩き始めると小動物の如くチョコチョコと付いてきた。
その辺に有ったカラオケボックスに入り、とりあえず互いに注文した飲み物が届いて一息吐く。
「まずは自己紹介でも。自分は田中 梓。高谷(たかや)中学の3年生」
「え……?」
一応初対面なので簡単な自己紹介をと思ったのだが、彼女は何やら驚いたように目を見開く。
「年下、だったんだ」
ポカンとする彼女。
……良いさ、その反応は慣れてるさ。
私服では余計に年上に見られるからな。
「嗚呼。それで、貴女の名前は?」
「あ、わたしは吉本 叶。高校2年生です」
最初のコメントを投稿しよう!