第1香 トップノート 1st.

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 やさしさは何色か、知ってますか?  癒やしを感じる黄緑の若草色。  心に染みる水色のベビーブルーかな。  感受性の強い紫のライラックがそうかも。  繊細で純真な淡いピンクの桜色かもしれない。  やさしさの色を知りたい。  わたしはやさしさの色を、ずっと探していたのかもしれない。  他愛無い乙女の夢想に耽っていた時、その色彩が視界に入った。 「……ッ!?」  わたしの注意を引いたのは、それがわたしの名前と同じ色彩だったからだ。七色にたゆたう虹色の色彩──   それがふわりと視えたので、出処を目で追った。 「拡散しようぜ」 「早く落ちないかな?」 「この動画売れないかな?」  みんながスマホをかざしている。見上げているのは、マンションの屋上だ。投身自殺をしようとしている人を、みんながスマホで撮っているのだ。興奮と期待の混じったざわめきが、やけにうるさい。  5階建てマンションの屋上に、女性が立っている。化粧っけのない蒼白な顔と、赤いトップスの女性だ。屋上の際に立つ姿は、風に煽られ儚く見える。
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