第1香 トップノート 1st.

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「ああ、ありました。この香瓶の中には、カモミール・ローマンが入っています」    男の人が懐から小瓶を取り出した。  女の人の表情が、不審と疑問に彩られた。 「植物に含まれる芳香物質を取りだした天然香料で、エッセンシャルオイル、精油と呼ばれています」  手に持った小さな香瓶を差し出した。 「カモミールは多年草の小さな花から取れ、ローマカミレツの別名もあり『高貴な花』と呼ばれています。果実のように甘く、温もりのある植物の蒼さに、酸味のあるフルーティーな香りは青リンゴのようです。ですから古代ギリシャ人はこの花を、『大地のリンゴ』と呼びました」  男の人が瓶のフタを取った。 「カモミールの香りは、動揺している心を鎮めてリラックスさせる効果があるんです。精神的ショックや心理的トラウマで傷ついた心を和らげる力が、この香りにはあります」  ふわりと瓶を振ると、女の人の表情が穏やかになる。 「僕のこの香りが、きっとあなたを救います」  男の人が、香るように言った。わたしはなぜか、必ず救ってくれると思った。
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