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わたしの問いに、ハチがうなずいた。
「《アスポデロス》の香り、それは人を開放性幻覚に誘う神秘の芳香なんだ」
「開放性幻覚?」
「開放性幻覚とは、感覚遮断にともなって現れる幻覚だよ。暗闇の静けさで、何かが見えたり聞こえたりする幻覚だね。でも《アスポデロス》の開放性幻覚は、香りを嗅いだ者の抑圧された潜在意識を開放するんだ。簡単に言うと、香りの効能で入神状態、つまりトランス状態になるのさ」
「それで神託を司る一族なワケね?」
「シルクロードを東へ、仏教と共に一族は日本に辿り着いた。それは《アスポデロス》が日本に存在したからなんだよ。そして御門一族は古代日本の朝廷に仕え、宗教的儀式に於いて神託を司る隠れた存在として、代々継承されて来たんだ」
「そんな歴史があったなんて」
遠縁とはいえ、ウチの家系にそんな悠久の歴史が隠されているとは知る由もなかった。
「御門さんから聞いたけど、シャネルの香水は《色香》で何色に視えたの?」
ハチが急に話題を変えた。わたしが重苦しい顔をしていたからだろう。
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