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「ある香りを嗅いで昔の記憶が甦るのは、扁桃体の活性化によるものなんだ。それをある小説家の名前を取って、プルースト効果と呼ばれているんだよ」
「香りで過去の記憶が甦る……」
「あっ、ごめん、調子に乗りすぎたかな?」
ハチが謝った。香りで昔を思い出すと言われて、わたしの顔が曇ったのかもしれない。
「違うの……」
わたしは首を振るが、ハチは心配顔だ。
「香りで昔の記憶が甦ると聞いて……両親のことを思い出したの」
「ご両親は亡くなったと聞いたけど」
ハチの言葉に、わたしは小さくうなずいた。
「よかったら、聞かせてくれるかい?」
ハチがいたわるように、やさしく言った。ハチのその顔が、大丈夫だよと訴えていた。
「わたしは幼い頃から、香りや匂いに色彩を視ていた。小さい時はそれが人とは違うことだと知らず、周りからは変わった子供だと思われていたの」
むしろ香りの妖精が魅せる色彩に、架空の物語を夢想していた。
「さすがに大きくなると周囲を気にして、香りの色彩を口にすることはなくなった」
それに相手が怒っていたり動揺していると、それが匂いとなって色彩に視えて、人の心を読んでいるような嫌な気分になったからだ。
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