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「そんな生活が一変したのは、わたしが高校に入学した頃だった。両親が同時に癌の宣告を受けて、揃って入院したの」
一人っ子のわたしにとって、父母が入院したことはショックだった。
「学校が終わって病院に駆けつける日々。それでもわたしは、両親に暗い顔を見せまいと、いつも笑顔で病室に通っていたの」
残り時間がわずかだということを感じて、少しでもわたしの笑顔を両親に贈ってやりたい、忘れないで欲しいと思ったからだ。
「それなのにわたしが視る色は、両親の身体を侵食する癌の匂いが視えた。土気色と黄土色が混ざった腐敗色が、大切な両親の身体から漂って来るのが視えたの」
両親のいる病室では笑顔だが、家に帰るとその腐敗色が身体に染みついているようで、トイレで何度も吐いた。
「その繰り返しの日々に終わりが来たの。母と父は一年前に相次いで亡くなった……」
癌の末期には、ドス黒く糜爛した色彩しか視えなかった。その色彩が両親を貪り、あとには残骸しかなかった。今もわたしの胸の奥で、自虐の残り火が燻っている。
その緋色が、わたしを苛んでいる。その焔色が、わたしを蝕んでいる。
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