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二人を救ったマシュマロの抱擁から開放され、八分儀さんと女の人は無事に地面に降りた。
「あの……ごめんなさい」
メガネが壊れていないか気にしている男の人に、女の人が謝った。
「二人とも生きていて、本当に良かったですね」
15メートルからダイブしたのに、相変わらずの笑顔である。
「あなたが救ってくれなかったら……わたしは……」
「あなたを救ったのは、このカモミールの香りですよ」
そう言って、手のひらの小瓶を差し出した。女の人は小瓶を愛おしそうに受け取る。
わたしは女の人に、独特の匂いを視た。それはわたしが見知っていた色彩だ。女の人は看護師さんかな?
その色彩とは別に、赤黒いイメージが視えた。それは紅蓮の焔をイメージさせる緋色だった。
「──美幸です。あなたの名前を、教えてください」
紅蓮の焔色に心を奪われて、女の人の苗字を聞き漏らした。でもそれは、焔色を連想させる苗字な気がした。
「僕の名前はどうでも良いですよ。それでは、また逢いましょう」
男の人がそう言って、女の人に別れを告げた。女の人はおっとり刀で駆けつけた警官と、人群の中に消える。
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