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「きゃあ!」
街角で、夫人が卒倒しそうな様子で悲鳴を挙げる。
彼女の眼前には、獰猛な肉食獣が、その顎を開いて、今にも跳び掛からんとするが如くの形相を現している。
「ははは。驚かしてしまいましたか。」
その背後で、四角い木製の箱を抱えた青年が笑う。
髪は伸ばし放題、身なりこそみすぼらしいが、深いブラウンの瞳は静かな落ち着きを感じさせる。
「それでは、こちらは如何かな?」
青年は、手元の箱を操作する。
すると肉食獣は消え失せ、雄大な山々と湖、遠影に古城を擁する、美しい景色が映し出される。
周囲は見物人の感嘆の声で満たされ、全員の目が対面の壁に釘付けとなっている。
「さて、お次は。」
調子が出て来た、とばかりに、青年は再び箱を操作する。
「おお!」
「まあ!」
「へぇ!」
驚きと、喜びの入り混じった歓声。
映し出されたのは、神々しい聖母マリアの姿。
腕に抱かれた赤子は、キリストだろう。
そう言えば今夜はクリスマスイブね、と誰かが言った。
「如何でしたでしょうか。今宵の幻燈は、これにてお開き。」
青年の挨拶に、万感の拍手。
そして、多数のコインが投げ掛けられた。
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