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「・・・今夜も、まずまずだな。」
青年は、ほくほくとした面持ちで、地面のコインを拾い集める。
「ああ!」
見物人が波の引いたように去った、その場に。
取り残されたように佇む、一人の少女。
「有り難う!君の御蔭で、興業が打てたよ!」
その少女を見付けると、青年は嬉々として駆け寄り
「肝心要なマッチを忘れるなんて、とんだ大ドジだよね。ははは。・・・じゃあ、今、マッチの代金を・・・」
拾ったコインの一枚を、少女に差し出す。
が。
「・・・どうしたの?」
少女は目を真ん丸に見開いたまま、動こうともしない。
やがて。
「・・・すごい。」
少女は、ぽつりと呟いた。
「え?」
「すごい!すごいわ!さっきの、何!?魔法!?あなた、魔法使い!?」
「あ?え?ち、ちょっと、あの・・・」
青年の手を取ってはしゃぎ回る少女。
戸惑う青年。
「ま、魔法じゃないよ。これは幻燈と言って、中に灯した蝋燭の灯りで・・・」
「とにかく、すごいわ!いい物見ちゃった!」
難しい説明は、あまり理解されなかったらしい。
青年は頬を染めつつ、頭を掻くばかりだった。
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