第1章

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「・・・うう・・・」 男は、ゴミと酒瓶が散乱した部屋の中。 「・・・マリィ・・・マリィ・・・」 時折、亡き妻の名を呼びながら。 「・・・うおおぉ・・・!」 涙に暮れていた。 妻の死から、既に半年経つ。 それでも、男の哀しみは癒えなかった。 いや。 それは、怒りに近い感情かも知れない。 男も、元は働き者と呼ばれていた。 要領は良くないが、真面目に正直に、一生懸命働いた。 だが。 その、真面目で正直で、一生懸命な男の稼ぎは。 妻の薬代にも足りなかった。 結果。 神は、男の元から、最愛の妻を奪い去った。 「畜生!」 男は、足元の酒瓶を蹴っ飛ばす。 がしゃん!と何かが壊れた音がしたが、知った事では無い。 「畜生・・・畜生・・・畜生・・・」 男に残されたのは、小さくない額の借金と・・・ 「ケビン・・・ケビン・・・」 ふと気付くと、何処からか、声がする。 「・・・誰でぇ。俺を呼ぶのは。」 「ケビン・・・」 男が、面倒そうに顔を上げると。 「・・・!」 男と対面の壁に。 「マリィ!」 亡き妻の姿が、浮かび上がっていた。
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