一章 再会の痛み

3/19
前へ
/86ページ
次へ
 貿易都市トファス。近隣諸国から様々な物資が流れ込んでくるため、ある意味でどの国よりも潤っている都市である。中立を保ち、どの国にも平等に取引をしている。  昔はこの都市を巡り戦争が幾度も勃発していたらしいが、今では中立の一都市として君臨している。  この都市に来るのは二回目になる。  ディンス・イーリスは少し元気を失った市場の中をゆっくりと歩いていた。  ちょうど五ヶ月前、この街を中心になにか大きな事件が起きたらしい。それの復旧であまり活気どころか、街全体で疲れた空気が漂っていた。  ディンスは嘆息しながら、人々の様子を観察した。  彼は繁華街へとやってきた。そろそろ昼時だ。どこかでゆっくりと上手い物を食べるのもいいだろう。  そう思い、視線を巡らせながら店を探した。  さすがに繁華街は活気がまだあった。  呼び子の看板娘が店前で声を張り上げている。と、通りのはずれで一人の娘が狼狽しているのが見えた。身なりからして旅人のように見える。外套の下に見えるのは法衣のようである。となると術師なのだろうか。  娘は道行く人々をキョロキョロと見回している。連れのものとはぐれてしまったのだろうか?  と、そこへ二人の男が近寄っていくのが見えた。何処に行っても軟派な男というのはいるものだ。それも悪意を持って接していく者は何処へ行っても質が悪い。  あまり目立ちはしたくはないが、どうも性分なのだろう。ディンスは音もなくその娘の方に近付いていった。  人混みをすり抜けるように歩き、男達よりも早く娘に近付いた。 「すみません。いいですか?」 「は、はい?」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加