第1章

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その次は2日後。その次は1年後。出るたびに経過する時間は変わるようだった。その都度ジェシカは美味しいお菓子を食べさせてくれた。 人間の言葉も少し覚えた。紅茶と言う物を飲んで目を回した。 ある日訪れるとジェシカは黒い服を着ていて、棺の側で泣いていた。しかしルナを見ると無理に笑顔をつくって、お菓子を焼いてくれた。 息子が戦争から帰ってきたんだそうだ。お腹から上だけ。 人間界は今とても不安定で、妖精にはとても居心地が悪かった。しかし泣きながら話すジェシカの側をしばらく離れられなかった。 あれからまた2年後に訪れると、ジェシカはすっかり元気になっていた。お菓子を食べるたびにルナは力を付けていった。ジェシカの作るお菓子だけとても力がつく。 それから何度も訪れた。ルナは力を使って綺麗なアクセサリーを作ってジェシカにプレゼントした。とても喜んでくれて、毎回つけてる。 そしてジェシカはおばあちゃんになった。 2年越しで会いにくると、ジェシカはベットに寝ていた。周りには時間が固まった人間たち。険しい顔をしていた。 ジェシカはルナに気づいて起き上がるも、フラフラとしていた。ルナは気遣うもジェシカは笑顔でお菓子を出してくれた。妖精の焼き印のあるケーキ。 少し前からジェシカはお菓子を作れなくなっていた。しかし、ジェシカの作るお菓子でないと食べれなかった。いくら頑張っても半分。それに力も沸いてこない。 だからジェシカは娘たちに手伝ってもらい、最後に自分の手で妖精の形の焼き印を押していた。 すると食べられるし、力も湧く。 ジェシカは楽しそうに周りの人間を見回していた。遺産相続という話をしているのだそうだ。人間は争う事が好きなようだ。 ルナはふと思う。ジェシカはなぜ自分にお菓子を恵んでくれるのだろう?ひょっこりやってきてお菓子を食べるだけの存在。そうジェシカに訪ねると怒られた。 いつもつけているネックレスを貰ったときはとても嬉しかったのだと。こんな世界でもルナと話していると輝くのだと。 帰り際に何時ものようにジェシカはルナの手をトントンとして呪文を唱える。ただ今回だけ呪文が違っていた。「妖精の友。健やかであれ。あなたが故郷に帰れることを祈っている。」 ルナの教えた妖精の言葉。 ジェシカの笑顔をみて思う。 ジェシカはもう…長くない。
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