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いつでもそうじゃないけど、ふいにそういう瞬間が訪れるんだ。 自由になっちゃいけないって。 飛行機に乗れないってなったのも、そんなことが発端だった。 搭乗ゲートまではよかった。 だけどそこから先に進んでいったらパニックみたいにいろいろ頭の中がぐちゃぐちゃになって、気付いたら医務室みたいなとこに運ばれてた。 病名こそつかなかったけど、精神的なことが起因しているだろうとは言われた。 思い当たる節はもう楓のことしかなくて、こればっかりは自分じゃどうしようもないから以降搭乗ゲートから先には進めない。 冬に修学旅行で海外が待ち構えてるけど、もう適当に誤魔化して休む算段でいる。 行けねぇよって。 矢野は笑って『じゃあ一緒にサボろうぜ』って言うけど、あいつまで巻き込むわけにはいかないよな。 両親もわかってて律儀に旅行積み立て納めてんだから、なんだかなって思う。 俺、このままずっと飛行機に乗れないのかなって思うと少し淋しい気もするけれど、でも― 飛行機に乗れなくたって、生きてくことはできるから。 楓は、生きて帰ってくることすらできなかったんだから、それに比べたら― 「中嶋。よく復習しとけよ?理系志望だからって古文ナメたら痛い目見るぞ」 黒板の前からそう声がかかり、ようやく現実に引き戻された。 いつかの柴田のノートみたいに、僕の前に開かれたノートは真っ白なままだった。 はい、と無機質な返事をしながら小さくため息をつくと、僕は諦めて黒板の文字をその白いノートに書き並べた。
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