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蝉の声がやけに耳につく中、僕らはスッと消えて行った矢野の背中をしばらく見つめていた。
…気まずい沈黙。
さらに気まずいのは、僕がまだアイスを食べ終えてないっていうこの現状。
「…溶けてるよ?」
何かを諦めたのか、橘がようやくそう言って少しだけ笑った。
たぶん、橘も気づいた。矢野の策略に。
「あー…うん」
シャリシャリと、さっきより水っぽさを増した氷を僕は口にした。
「あっついねー」
「…うん」
うん、しか言えないのか僕は。
ジージーと無機質な蝉の声だけが今の僕には頼りだ。
「なんかさ、ごめんね」
静かに、でもはっきりと橘は僕にそう言った。
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