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「あ、冗談に聞こえないか。ははっ」
そう言って自嘲気味に笑う橘の手には、まだ空のカップが所在無げにポツリといる。
「…安心してよ。付き合ってなんてしつこく迫り続けないし、好き好きみんなの前で言ったりしないから。
微妙な空気にさせといてこんなこと言うのもおかしいけどさ、…そんな気を遣わなくてもいいよ」
カップを見つめながら困ったように小さく笑う橘の横顔はやけに大人びて見えた。
「ホント、いろいろごめん」
「…いや」
うん、とは何となく言えなくて、曖昧に頷く。
「それと」
橘は視線を落としたまま続けた。
「柴田のことなんだけど。…なかじは知ってんの?……耳のこと」
「耳のこと?」
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