4

17/47
前へ
/612ページ
次へ
耳のことって― 僕の方に橘はゆっくりと顔を向ける。 何かを伺うように、その瞳の奥の光は僕の中をまっすぐに射抜いた。 じっと動かないままだった時が、橘の静かな声とともに動き出す。 「…左耳。ほとんど聞こえないみたいだよ」 ―え わずかな自分の声に、思っていた以上の感嘆が混じっていた。 「…やっぱ、知らなかったんだ」 橘の表情は変わらない。 淡々と、その事実だけを口にする。 「カバン投げられたときに保健室でさ。織田先生と山ちゃんが話してた」 静かにそう言った後で、手にしたカップをギュッと潰した。 「ホントは死ぬほどムカついてたから言いふらしてやろうかなって」 「え」
/612ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1801人が本棚に入れています
本棚に追加