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「嘘だよ。さすがにそこまではできない」
ふっと笑って橘は握り潰したカップの方に視線を戻す。
「……柴田のこととなると、なかじはー」
もう、と小さくため息をついた橘は立ち上がると、言葉を続けた。
「なかじにしか話してないし、他の誰かに話すつもりもないから。
でも、耳のことは間違いないと思う」
じっと真っ直ぐに僕を見つめるその視線が言う。
嘘ではない、と。
僕らを包む真夏の気だるい空気を切り取るように、ハッキリと。
「イヤホン、私が引っ張って壊したの。あの日。…だから怒って私のバッグ投げたんだ。
その時は気にも留めなかったんだけど、あの時―」
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